4月になって漸く、漸くBerkeleyも店が開き始めた。今もCafenated coffeeの店内でカプチーノを飲みながらこの文章を書いている。振り返ってみると、やはり世の中の店や施設が相手いないロックダウン状態が如何に異常だったかが分かる。運悪くトランジションのタイミングでそうしたブラックスワンに当たってしまった。ずっと家に籠ることは、決まったことを処理するには最も効率が良いが、決まっていない道を切り開くには地獄である。

新しく道を切り開くときは、論理を越えた出会いや直感の様なものは必須である。偶然の出会いから機会が生まれることもあれば、リアルな体験から自分の中の壁が壊れ、挑戦してみようという気概が生まれてくる。けれども、ロックダウンでのオンライン状態では、それは生まれない。故に、思考に頼って一日中考え続けてしまうのだ。そして、トランジションのような抽象度の高い物を思考する際は答えが出ることもなく、地獄であるのだ。

まあそんなかんなで静かなる地獄の生活を送ってきたわけだが、もうあと1ヶ月で30歳になる。僕にとってこれは大きな節目である。20代というのは若さという勢いのままに突き進めたし、何より若いということで自分にも言い訳が出来た。ギャップをとったり、道を外れる言い訳だ。30代は、そうしたものが一服して地に足をついた生活が出来るかの年なのである。

振り返ってみると、20代は苦しかった。20歳になったのが、慶應で信濃町にキャンパスが移った頃。空手部もキッパリやめてやりたいダブルダッチに専念したり、文明塾に通ったりしていた。今思い起こすとあそこでも、部活社会というシステムと個人のやりたいことが対立していたのだと思った。けれども、なんとか貫いてダブルダッチでは成果を出す事ができた。

一方で、自分の長い人生をかけて目指すものは依然腹落ちしていなかった。なんとなくダブルダッチではクリエイティブなことに引かれていたし、その延長でデザインスクールにも通った。けれども、一方でテクノロジーやビジネスのダイナミズムにも魅了されていて、それを融合する場所が見つからずにいた。そうしたことをずっと考え続けてきていた。何より大変だったのが、医学部にいたということだ。医学部の中ではもちろんそうした多様な知見のリソースがない。選択肢が臨床医か研究医、厚生労働省で、更にほとんどが臨床医の中でどの科を選ぶか競争であった。そして、みんな何をやりたいのかという個人の問題に関して考える雰囲気でもないのだ。そうしたこともあり、常に外に出て機会を探していた気がする。ただ、それは裏を返すとコミュニティーがないということなので、外のコミュニティーでもいつも疎外感を感じていたし、そうしたところで自信を持って振る舞えるようになりたいと思っていた。故に、いつの時も地に足がついていない感があり、それがまた僕を苦しめていたのだ。

研修医になって一応「社会に出る」形にはなったが、臨床は明らかに僕のやりたいことではなかった。共産的、没個性的な雰囲気の中で利他的に生きるのは僕にはできなかった。そんな中でビジネスの道を目指したのは至極当然のことでもあるが、如何せん道を変えるにもスキルセットが薄いのと、トランジションの仕方がわからない。適当に就活したが、みんな「ダイバーシティー」とはいうものの本当に異質のものを取るやつはいないのだ。そんなこともあり、なんとかJOMDDとビジネススクールに滑り込んで、PMという理想の職を見つけた。漸く今までの沼から抜けられると懸命に努力する中でコロナが直撃した。ベイエリアというテクノロジーにとって理想的な場所に来れたことはとても満足しているが、正直な話Berkeleyという場所は僕の性質に合っていない。リベラルと言いつつもかなり共産的で自由や創造性、天才性を求める雰囲気はもう残っていなかった。更に、コロナやら大統領選などで、政治色や集団思考が強まってしまうという最悪の状態になっていた。それもあって、今回ハワイやフロリダへと逃げたのだが、如何せん想像以上に苦しい(精神的に)生活になってしまっていた。

それなので、振り返ってみると、地に足をついて自分のやるべきことをやれている状態、というのが極めて少ない20代であった。Steve jobsやらアルケミストなどの夢を追い求める生き方に共鳴し、なんとか道を切り拓いてきたが、その裏の99%は苦しみとの対峙であったと思える。

それも20代のうちだから我慢できる、と思って鞭を打ってきた。30歳になる前にMBAを卒業し、新しいキャリアへ道を開くのは何かの啓示だと思っている。その大きなトランジションの祝福の為にOpus One 1991年を購入した。「作品番号1番」ということでまさに僕の求める作品のビンテージを楽しむことで、30代への移り変わりとしたいと思っている。

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