FBより
2020年も半年が過ぎました。コロナを始めとしてこの1年は想像以上の事が折り重なり、かつ自分自身もキャリアのトランジションを進める中で、大きな打撃を受けました。
正直な所を言うと、こうしたブラックスワンが起こることは予想していました。以前は2008年のリーマンショック、その前は2000年のITバブル、1991年のバブル崩壊/湾岸戦争、1985年のプラザ合意、1973年のオイルショックなど、「歴史を変えるような事変」は10年に一度起き、その出来事に置いて人類や社会は多くの転換点を迎えてきました。
また、僕の母国である日本は、明治維新や第二次世界大戦などの歴史を振り返ってみても、窮地に置かれては復活し、奇跡の復活を遂げては平和ボケをしてまた窮地に至ると言う、70年置きの栄枯盛衰を繰り返してきました。僕自身、日本で30年近く暮らしてきている中で、そうした停滞感と伝統の中で挟み撃ちにされ、このままではいけないと思い、またそうした転換的な出来事がそろそろ起こるという予見もありました。出来るだけ早く外の世界、特に最先端の場所に飛び込もうと思い、医師を辞め、社会人としてのキャリアは少ないながらもMBAに飛び込みました。
そうして入学した2019年夏、実際にベイエリアに来てみてホッとしたのを覚えています。現実的なことを言うと、今のMBA、特にUSのトップスクールはとんでもない学費がかかります。もし、上記のようなブラックスワンが起こっては、そうした未来への大きな投資がいつできるか分からず、なんとか早くリスクをとってしまいたいという思いがありました。
入学してからも、歴史の流れを鑑み、何が人間にとって必要で、未来を紡ぐ道なのかということを考えつつ、自分のやりたいことや出来る事を省みて、道を紡ごうとしました。その中で、以前述べたようにベイエリアにはProduct Managerというプロダクトに責任を持ち、エンジニアやデザイナーと協力して指揮者の様に、人々の生活に最も必要な物を作り、その生活を良い方向に変えていく存在があることを知りました。まさにこの最先端のベイエリアで、一流の企業でProduct Managerとして数年間経験を積む事が、僕の30代前半の為すべきことだと確信を得て、全力を尽くしてきました。
けれども、物事はそう上手くも運ばない物です。27年間日本で過ごした人間かつ、医者という専門性が高すぎる人間が、ある種理想を掲げて違う職種に転職するのはとても難しい物でした。80社以上にアプライし、100人以上にネットワークしましたが、オファーをもらう事もなく、3月からはコロナによる影響が出始め、5月下旬には完全にバーンアウトしてしまいました。
正直な話、「またか。」
と思いました。歴史や哲学といったある種抽象的な事象に想いを馳せ、自分の中の理想を掲げた結果、現実との折り合いが取れないのはまさに1年半前に経験していたからです。僕の弱点は思考がリープし過ぎて現実との折り合いが取れなくなり、宙ぶらりんになってしまうのが問題です。仕事においてもそうだし、実際のキャリアにおいてもそうです。1年半前にStanford1校に突っ込んで落ち、どこも行き場所を無くしました。それでもその時はなんとかありがたいことに新しい道が開けてきました。
ただ、そうしたいわゆる「間」の部分に落ちてしまう事は想像以上に辛い事です。ある種レールから外れる恐怖、また今後レールに戻れるのかという不安、周りとの共感を得られない疎外感、迫りくる「退屈」という空虚。論理性を超えた決断がしたが故の、論理に頼れず、未来の想像の根拠を得られない不安定感。
5月下旬はそうした「間」に落ちてしまいました。朝起きて授業もなく、かと言ってリクルーティングもする気がなく、不安を和らげる為には友人に電話して1日を凌ぐ日々。ノーベル賞受賞者の山中先生の動画を見て、ギリギリで奇跡は起こるとなんとか祈りながら生きていた気がします。
けれども6月に入り、リクルーティングももう完全に終わりが見えた頃、本当に偶然にも2つのピンとくる機会が入ってきました。コンシューマーゲノムのスタートアップとモバイル3Dスキャナーのスタートアップです。本当に最後かもしれないという思いのもと、CEOに直接連絡を取ってみることにしました。すぐに返事が来て、「これは良い前兆かもしれない」と思いました。なぜなら、以前「間」に落ちた際もそれから新しい機会を得たのは、VCのトップやスタートアップのCEOにコンタクトしてからだったからです。僕のような思考がリープする人間は正統派の就活は無理だとなんとなく思っていました。
その時は緊張していましたが、なんとか自分を出すことが出来、奇跡的にオファーを得ることが出来ました。New Business Creationと3D Product Manager Internというポジションです。しかも2つのスタートアップで同時並行で働ける事になりました。既に働き始めて2週間になりましたが、もちろん大変で辛いことも多いです。自分の知見のなさを悔いて、どうして医者という遠回りをしてしまったんだといったつまらない悩みを持ったり、一緒に住んでいた大切な人がタイミングを合わせた様に出ていき、朝起きた時の寂しさや喪失感を味わったりもしています。それでも、なんとか今やっていることが未来に繋がるであろう直感を持てたと感じており、久々に心が安らいだ感覚があります。
2020年はコロナウイルスというブラックスワンが起こり、社会が混乱しました。健康という人間の体の本質の部分に関わるが故に、10年前のリーマンショックの時よりも、表面的なインパクトが大きく、実際にそれに対する解決策も見つかっていない不確実性が不安を掻き立てています。僕自身留学生という立場で、2000万円払った授業の半分以上がオンラインになる可能性が高く、苦心してとったMBA卒業後の職もあるかわかりません。職を得た先のVISAもどうなるかも不明です。ある種希望に満ちた1年前の留学が、震える地面の上でいくつもの針穴を通す様な不確実な作業に変わってしまった感覚を持っています。
けれどもこうした出来事を受けて感じたのは、こうした時でも自分の信念や本当にやりたいこと、なりたい姿を見失わない様にする事が大切だ、ということでした。僕自身、今後どうなるかはわかりませんが、どんな時でも「良いニュースというのは小さな声で語られることがある」のだと信じて。